サイゴン路地裏物語
在日ベトナム人のワクチン接種

在日ベトナム人のワクチン接種
「ワクチンを打ちたいとは思っていましたが、なかなか機会がなくて…。焦ってはいませんでしたが、不安はありました」。
こう話すのは、ベトナム人留学生のグエン・ティー・チー(21歳)さん。大阪にある専門学校に通っている。
外国人でも日本に住民票があれば、新型コロナウイルスの予防ワクチンを打てることは、彼女ももちろん知っている。接種券も送られてきた。彼女の日本語は、日本に来てから2年半というのが信じられないほど上手で、日常会話には不自由しない。そんな彼女でも、「日本語で発信されるワクチン接種に関するさまざまな情報をきちんと理解するのは難しかった」という。
チーさんだけではない。昨年、コロナ禍の続く大阪に帰国した私は、日本に住むベトナム人の知人から同じような話をよく聞いた。私の手元にも、日本に帰国してからほどなくワクチン接種券が届いたが、手続きが面倒だなと感じたのは事実だ。外国人であればなおさらだろう。
チーさんの通う学校では、1000人の留学生のうち8月時点でワクチンを接種した人はわずか150人だったそうだ。「この状況をなんとか改善できないか」。そう考えた学校側は、在留外国人向けのプラットフォームメディアを運営し、かれらの生活を支援するYOLO JAPANに相談した。
大阪市浪速区にある同社は、社内のイベントスペースを利用した職域接種を計画した。外国人を主な対象に想定し、17カ国語の予診票を用意した。1回目が9月12日、2回目は10月9日と決め、チーさんの通う学校の留学生600人に接種を行うことにした。チーさんを含め、大部分がベトナム人だった。2回目の接種を終えたばかりの彼女は、「ワクチンを接種できてホッとしました」と晴れやかな笑顔で話した。
日本の行政も、在留外国人がワクチンを接種できるように努力はしている。厚生労働省のウェブサイトでは、多言語で予診票を用意するなど、態勢づくりは進めているが、外国人にはうまく伝わっていないようだ。
YOLO JAPANの代表を務める加地太祐さんは「行政はメディアじゃないですからね。日本に住んでいる外国人にはそもそも厚労省のウェブサイトを見ようという考えが浮かばない」と分析する。「20万人を超える日本在住の外国人が弊社のサイトに登録しており、彼らに直接的に情報を伝えることができます。イベント、コンサート、セミナーや商談が可能な多目的スペースも持っており、『ここは一肌脱ごう』と考えました」と語る。
接種に当たる医師もワクチンも自ら手配し、会場の案内役もすべて社員が休日出勤で対応した。苦労はあったが、「やって良かった」という。
約20年ぶりに日本に長期滞在する私が驚くのは、ベトナム人が増えたことだ。買い物で立ち寄るコンビニエンスストアや移動の電車などで、ベトナム人を見掛けない日はない。2020年は新型コロナで往来が難しくなったにもかかわらず、日本に住むベトナム人は増えている。その数は50万人近くに上る。ベトナムに住む日本人の約20倍もいる。
ベトナム社会が日本人を暖かく迎えてくれたように、日本社会もベトナム人を暖かく受け入れたいものだと思う。そうなれば、ベトナムと日本が互いに幸せになるだろうから…。
【写真キャプション】
ワクチン接種を受けるチーさん
(初出:時事速報ベトナム版2021年11月29日/改稿:2022年01月24日)
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