サイゴン路地裏物語
日本の教会に集うベトナム人

日本の教会に集うベトナム人
「日本に留学に来るとき、いちばん不安だったのは、もしかしたら『教会があるかどうか』だったかもしれません」
そう言って笑うのは大阪市内の専門学校に通うベトナム人留学生のホアさん、21歳。来日して2年とは思えないほど上手な日本語を話す。
彼女の両親は1954年、ベトナムが南北に分断されたときに、共産主義政府を嫌って北部から南部に移住したカトリック信者だ。ホアさん一家が住むドンナイ省の村の住民は、ほとんどが北部から移住したカトリック信者ばかり。ホアさん自身、物心ついたときから、毎週日曜日の教会通いを欠かしたことはない。
「ベトナム国内はどの町でも教会があるから安心ですが、タイやカンボジアなどの仏教国に旅行をするのは大変です」
アンコールワットを見に行きたいと思っていたが、シェムリアップにカトリック教会があることが確認できなかったため、諦めたそうだ。
そんなホアさんだから、日本への留学を考え始めた際にも、真っ先に日本のカトリック情勢を調べてみた。
「日本のカトリック信者数は約40万人で、人口比で0.3%程度だと知って驚きました。ベトナムでは7〜8%だと聞いていますから」
調べてみると、大阪府下には複数のカトリック教会がある。中でも大阪市内の玉造教会では、毎週日曜日には、ベトナム語のミサが行われていることを知り、安心して留学を決めた。来日以来、日曜日には同教会に通っている。
日本で緊急事態宣言が実施されている間は、自宅でベトナムの教会が配信するオンラインミサに参加していたが、ミサが再開されると同時に教会通いに戻した。毎週のミサには数百人のベトナム人が参加するので、思い切り母国語で話ができる貴重な機会でもある。これも楽しみだ。
ホアさんに限らず、ベトナムのカトリック信者はかなり信仰熱心で、かつ厳格であるように見える。まず異教徒との結婚はかなり難しい。「好きな人ができても、相手が仏教徒だと恋愛関係になることを諦める」という話を聞いた。ホアさんの生まれ育った村では、強引に異教徒と結婚すると、本人だけでなく、その家族や親戚まで村八分にされたという。生まれた子供は必ずカトリック信者として育てる。だからだろうか、カトリック信者同士の共同体意識は強いようだ。
「留学や就労で来日するベトナム人が増えて、この教会のカトリック共同体も様変わりしました」
そう語ってくれたのは長年玉造教会に通っているベトナム人男性。彼は1980年代にボートピープルとして日本にやってきた。2000年代初めまでは、この教会に集うベトナム人は、彼と同じような背景を持つ人ばかりで、人数も2〜30人だけ。ミサも毎週は開かれていなかった。
「今はこの教会に登録しているベトナム人は500人を超えています。その中心は留学生と技能実習生で、すっかり若返りました」
確かに教会に集まっている人たちを見ると20代の若者ばかりだ。かつては玉造教会に来ているのは南部ベトナムの人ばかりだったが、今は北部や中部のアクセントで話す人も多い。いろんな地方のベトナム人が一堂に会しているのは、ベトナム人の世代交代を象徴している情景のように見えた。
【写真キャプション】
ベトナム語のミサが終わった直後の玉造教会
(初出:時事速報ベトナム版2021年11月09日/改稿:2022年01月17日)
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