サイゴン路地裏物語
納骨堂で号泣する女性

納骨堂で号泣する女性
まさに「号泣」という言葉がぴったりだった。
教会の納骨堂には、壁一面に遺骨が入った小さな収納庫が並び、故人の遺影とともに生まれた日と亡くなった日が記されている。遺骨の収納庫の表面を手でなでながら、話かけたり、涙を流したりしている人を見掛けることは多い。
60代に見える女性が、その一つに頬を擦り寄せながら、辺りをはばかることなく、大声を上げて泣いていたのだ。とぎれとぎれに聞こえる彼女の言葉から、遺骨は何年か前に亡くなったご主人さんであることが分かった。
敬虔(けいけん)なカトリック信者だった義父も、その教会に遺骨が納められており、家族そろって定期的に訪れている。
くだんの女性はとても1人で歩けるような状態でなく、迎えに来たお子さんらしい人に抱えられ、納骨堂を後にした。ベトナム人女性は夫への愛情が深いという話をよく聞く。それを目の当たりにした気がした。
深い愛情にはマイナスの側面もある。日本人の夫の勤める会社に、ベトナム人妻が半狂乱の状態で、「夫が行方不明です! すぐに探してください!」と電話をかけてきた。夫の日本人同僚が話を聞いたところ、「彼の携帯電話に連絡しているが、もう3時間も出ない。普段なら2時間に1回くらいは電話をくれるのに」との話だった。
結論を言えば、夫は重要な会議に出ていて、その間、携帯電話を切っていただけだった。妻は「浮気をしているのではないか」と怒ったり、「交通事故に遭ったのではないか」と心配したりと、気が気でなかったそうだ。
こんな話もある。ベトナム人の妻を持つ日本人が集まって食事していた時に、結婚間もない男性が先輩らに、「先日、飲み会で帰りが遅くなったところ、妻が怒って家に入れてくれず、途方に暮れた」と相談した。
先輩からは、「そういうことは珍しくない。ホテルに泊まれるように、パスポートは常に持ち歩いている」との返事だった。身分証明書となるパスポートを提示しないと、ホテルに泊まれないからだ。
驚いた表情を浮かべる新婚男性に、その場にいた10人近い日本人男性が全員、カバンからパスポートを取り出して見せた。私もその1人だった。ベトナム人の妻を持つ日本人が集まると、この手の笑い話は尽きることがない。
言うまでもなく、ベトナムの女性が皆、情に深いわけではないが、日本人女性の平均と比べると、その差は歴然としているように感じる。30年余り前に日本で流行した「亭主元気で留守がいい」というコマーシャルをどう思うか。ベトナム人の女性に聞いて回ったことがあるが、一様に「信じられない」という反応だった。
「情は深いが、拘束も強い」という夫婦関係を選ぶか、「淡交」を選ぶかは、それぞれの価値観の問題で、どちらが良いかは一概に言えない。
それでも私は、納骨堂で号泣する女性を見ながら「ここまで深い愛情を抱いてくれるのなら、厳しく夫を管理したり、嫉妬深くなったりしても、辛抱する価値があるのではないか」と感じた。
【写真キャプション】
教会の納骨堂。都市部を中心に火葬が行われるが、地方では土葬もまだ多い。
(初出:時事速報ベトナム版2020年11月27日/改稿:2021年09月06日)
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