サイゴン路地裏物語
人称代名詞は親近感のバロメーター

人称代名詞は親近感のバロメーター
ベトナム語を習得するのには幾つかの関門がある。人称代名詞はその一つだろう。
「私」や「あなた」が、相手との関係によって変わるのである。「私」の人称代名詞は、年下の人に話し掛ける場合はanh(アイン)だが、相手が年上だとem(エム)になる。同様に「あなた」も千変万化する。相手が年上の男性ならanh(アイン)、年上の女性ならchi(チー)、年下なら性別を問わずem(エム)だ。
これ以外にchau(チャウ)、co(コー)、chu(チュー)、bac(バック)、ong(オン)、ba(バー)などが使われる。親族間の「おじ」「おば」などに相当する呼称を加えると、人称代名詞は10種類を軽く超えてしまう。ベトナム人ですら使い分けに悩むことがあるほどだ。
慣れるに従い、便利な面も見えてきた。人称代名詞は、基本的に自分と相手の年齢によって使い分ける。しかし、実際の使い方を見ると、それ以外の要素も関係しているようだ。相手をどう考えているかによって、使い方が変わるのである。
私の娘は15歳だが、お店に行くと10歳以上年上の店員から、年上の女性に対する2人称代名詞「チー」で呼ばれることが多い。年齢に関係なく、利用客への敬意から「チー」を使っているのだろう。私も取材先の女性社長には、彼女が年下でも「チー」を使う。
ただ女性が年齢に敏感なのはベトナムでも同じで、気を使う。女性社長に「チー」と呼び掛けたら、「そんなに老けて見えるのかしら」と悲しそうな顔をされ、慌てて言い訳したこともある。
取材で訪れた高級ホテルの広報課長は30代の女性だった。彼女は年下だったが、最初は「チー」と呼んでいた。しかし話をするうちに、彼女から「あなたより年下だからエムと呼んでくれるとうれしいわ」と申し出があった。こう言われると、相手との距離が近くなったと感じられる。
カフェでは、自分の娘でもおかしくない年ごろの店員から「アイン」と呼ばれることが多い。年齢差を考えると「チュー」か「バック」(ともに「おじさん」の意味)になるはずだ。
以前、仲良くなった店員に「あなたのお父さんと同じくらいの年なのに、どうして?」と尋ねると、「『おじさん』より『お兄さん』と呼ばれた方が気分がいいでしょ」との答えが返ってきた。
知人のベトナム人男性は、「女性が相手の男性をアインと呼ぶときは『友だちまたは恋愛対象になりうる存在』で、チュー、バックのときは『対象外』というニュアンスを感じる」と言っていた。どこまで一般化できるのかは分からないが、興味深い意見である。
ベトナム語の「こんにちは」が「Xin chao(シンチャオ)」だということは、皆さん、ご存知だろう。ただ、実際には、chao+人称代名詞で話されることが多い。
相手が年上の男性なら「chao anh(チャオアイン)」と呼び掛け、年下の女性なら「chao em(チャオエム)」という具合だ。シンチャオより親近感が増すように私には感じられる。皆さんも、ぜひお試しあれ。
【写真キャプション】
名刺交換をするときに、相手をどの呼称で呼ぶべきかを素早く判断する
(初出:時事速報ベトナム版2019年12月23日/改稿:2020年11月23日)
※Sau khi được chủ blog chấp nhận, bình luận sẽ được đăng