サイゴン路地裏物語
ゴミを拾うベトナム人社員を育てるには

ゴミを拾うベトナム人社員を育てるには
先日、取引先である日本企業のベトナム人社員・ランさんと、レストランで打ち合わせをしたときのことだ。彼女が注文した飲み物はミネラルウオーター。運ばれてきたペットボトルのフタに付いている透明のフィルムをはがしたランさんは、それを制服の上着のポケットにしまった。
「机の上に置いておけば、店員さんが片付けてくれるのに、どうして?」
私が笑いながら尋ねると、彼女からこんな答えが返ってきた。
「以前、弊社の日本人社長が私のオフィスに来た時、床に紙ゴミが落ちているのを見つけて拾い上げたんです。ところが近くにゴミ箱がなかったんですね。すると彼は、ごく自然に自分の上着のポケットに入れました。それを見て『ああ、私も見習わなくては』って思ったんです」
ランさんが勤務しているのは、日本では東証1部に上場し、ベトナムでも名の知れた大企業だ。彼女のような平社員にとって雲の上の存在である社長が現場に来たとなれば、一挙手一投足に至るまで注視する。ゴミを自分のポケットに入れた彼の行為が、ランさんに強い印象を残したことは想像に難くない。
同社はボランティア活動にも積極的に取り組んでおり、社長さん自らベトナムの僻地の村にも足を運んでいるそうだ。ランさんは「そういう社長の下で働いていることは誇りです」とも言っていた。
ベトナム人社員は、日本人社員の立ち居振る舞いを実に注意深く観察している。それは「外国人だから」という理由だけではない。日本企業の場合、多くの場合、日本人が上司でベトナム人は部下だからだ。部下が上司のことをよく観察するのは日本でも同じだが、これが日本企業に勤める日本人上司とベトナム人部下となると、その目はさらに細かくかつ厳しくなる。
社長の人柄が社風に影響するのは、ベトナム企業のベトナム人社長でも同じだろうが、外国企業の外国人社長のほうが、その影響力は大きいように思う。「居丈高な姿勢の日本人社長の下には横柄なベトナム人社員が、笑顔を絶やさない日本人社長の下にはにこやかなベトナム人社員が育つ」という傾向は確実に存在する。ベトナム人社員は日本人社長の姿を写す「鏡」のような存在だと言っても言い過ぎではない。
社長が交代して、会社の雰囲気がガラッと変わってしまった実例に遭遇したこともある。ベトナムに駐在していた日本人社長が帰任し、代わりにやって来た後任の方は、非常に規則に厳しい人だった。それはとても素晴らしいことなのだが、社長が交代してから、ベトナム人社員たちの顔から笑顔が消え、対応も杓子定規になってしまったのである。働いているベトナム人は同じなのに、ここまで変わるかと驚くほどの変貌ぶりだった。
われわれ日本人としては、この影響力の大きさを活用しない手はない。ランさんのように、日本人社長のいいところを見習ってくれるベトナム人は多い。自らが範を垂れることで、より良いベトナム人社員が育つだろう。逆に自社のベトナム人社員に不満があるときは、自分自身、そして日本人管理職が、良いお手本を示すことができているかどうか、一度、振り返ってみてはどうだろうか。
【写真キャプション】
ホーチミン市内で見かけた派手なバイクのゴミ回収業者。
(初出:時事速報ベトナム版2019年04月23日/改稿:2020年09月28日)
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