サイゴン路地裏物語
それってハラスメントですか?

それってハラスメントですか?
普段はタイトなミニスカートを身に着けている取引先のベトナム人女性・ミーさんが、きょうはゆったりしたワンピースを着ている。
「もしかしておめでたですか?」
そう尋ねると図星だった。
「おめでとう!」
と声をかけると、
「ありがとうございます!」
と幸せいっぱいの笑顔が返ってきた。
「何カ月目ですか」「男の子、それとも女の子?」などと質問をすると、「まだ分からないんですけど、私は男の子がいいなって思っているんです」など、ニコニコしながら話をしてくれる。そんなやり取りをしながら、「これ、日本だったらセクハラって言われてしまうんだろうな」と心中、苦笑した。
私がベトナムに来たばかりの頃、初対面の人が私生活に踏み込んだ質問をしてくるのに戸惑ったものだ。いきなり「何歳ですか?」に始まり、「あなたは結婚していますか?」「仕事は何ですか?」から、「きょうは疲れ気味ですね」といった体調に関するもの、果ては「給料はいくらですか?」といったちょっと答えづらい内容まで、遠慮なく聞いてくるのだ。
どうして根掘り葉掘り質問をしてくるのか、疑問に思った私は、親しくなったベトナム人何人かに聞いてみた。すると「それは好意の表れなんですよ。好感を抱いている人のことはもっと知りたくなるじゃないですか」とか「いろいろ尋ねるのは『あなたのことを気にかけていますよ』というサインです」という答えが返ってきた。
「ベトナムでは相手の年齢によって、『あなた』に相当する言葉を使い分けます。だから年上か年下は重要な情報なんです」
こう教えてくれる人もいた。
確かに話し相手の男性が年上であれば「あなた」は「anh(アイン)」になり、年下だと「em(エム)」になるなど、ベトナムの人称代名詞は複雑に分かれている。年齢を気軽に聞いてくるのは、そういう事情もあるのだろう。
一方、日本では、男性上司が女性の部下に「週末は何をしていたの?」と質問しただけで、「それはプライベートなことを過度に詮索する行為で、セクハラとして訴えられる可能性もある」という話を、弁護士さんから聞いたことがある。
本人が嫌がっているにもかかわらず質問を続けたのなら、「セクハラ」と言われても当然だろう。しかし、質問をしただけで「セクハラ」になるというのは、ちょっと行き過ぎでないかと感じてしまう。
私がベトナム人の友人に、日本の事例を紹介しながら、
「ベトナム人だって、私生活を詮索されたくない人はいるでしょう?」
と尋ねると、
「だったら『そういう質問には答えたくない』って言えばいいじゃないですか」
と不思議そうな顔をされた。
私自身、今やすっかりベトナム流に感化されてしまっている。質問されることに寛容なだけでなく、私からも遠慮なく質問をするようになった。それに対して口が重たい人とは一定の距離を置いて付き合うし、うれしそうに答えてくれる人とは、どんどん仲が良くなる。
そういう経験を積み重ねた今、「質問文化」を活用することはベトナム生活を豊かなものにする鍵の一つだと私は感じている。
写真:ホーチミンシティ・グエンフエ通りで結婚記念アルバム用の写真を撮影していたカップル。「結婚していますか?」は初対面の人からよく聞かれる質問だ。
(初出:時事速報ベトナム版2019年02月19日/改稿:2020年09月14日)
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