サイゴン路地裏物語
よいサービスを受けたければ、よい客になること

よいサービスを受けたければ、よい客になること
日本の知人達7人がベトナムとカンボジアを旅行する際、「旅費は出すから案内役をしてくれないか」と頼まれて同行したときのことである。一行はホーチミンで2泊した後、カンボジアのシェムリアップに飛行機で移動するという行程だ。ところが私がチケットを手配したときには、知人一行の飛行機は既に満席だった。しかたなく私だけは、空席があった1時間後の便を予約した。
ホーチミンシティのタンソンニャット国際空港では、私が代表してチェックイン作業を行った。私が7人分のパスポートを出すと、ヴィさんという名前のカウンターの女性スタッフが、
「あなたの分は?」
と聞いてきた。
「本当は同じ便で飛びたいんだけどね、席がとれなかったんだ」
「このチェックインカウンターでも、キャンセル待ちのリストに名前を入れることができますよ。いかがされますか?」
私は「ぜひ!」とお願いした。
ヴィさんは、
「はい、これが既にあなたの席が確保できている1時間後の便の搭乗券です。キャンセル待ちがとれて、前の便に乗れるようになったら、新しい搭乗券と差し替えますね」
「お客様は携帯電話はお持ちですか? だったら、席が確保出来次第、あなたにお電話を差し上げましょう」
「お友達一行の搭乗締め切りは15時5分ですから、そのときには席がご用意できたかどうか分かります。取れても取れなくても、ご連絡しますね」
と、テキパキと段取りをしてくれた。
コンピュータのディスプレイを見ながら、「確約はできませんけど、私からの連絡をゆっくりお待ちくださいね」という彼女の笑顔を見て、「これは多分、大丈夫だな」と思った。今までにも、こういう状況で助けてもらったことは少なくない。ベトナムの人は、時々、本当に無理を何とかしてしまうのだ。特にこの手の笑顔を浮かべるときは。
15時少し前、はたしてヴィさんから電話が入った。何だかとても嬉しそうな声だ。
「もしかして、取れたの?」
「はい、ご用意できました。今から私が搭乗ゲートまで新しい搭乗券をお持ちしますから、そちらまでお越し頂けますか?」
搭乗口に行くと、満面の笑みを湛えたヴィさんが、搭乗券を持って待っていた。
「ヴィさん、本当に助かりました。ありがとう!」
「いえいえ、お友達と一緒のご旅行なのに、フライトが別だと不便でしょうから。私もお役に立てて嬉しいわ」
ヴィさんは、笑顔で私に搭乗券を渡しながら、私の目を見つめて尋ねてきた。
「一つお願いがあるんだけど、いいかしら?」
「何でしょう?」
「ベトナム航空のサービスについてのアンケートを実施しているんだけど、協力して頂けないかしら?」
さすがベトナム人女性はしたたかだわいと、笑ってしまった。もちろん私に異存のあろうはずはない。
「チェックインカウンターのスタッフがとても親切だったって、もちろん、ヴィさんの名前入りで書いておきますよ」
と、アンケート用紙を受け取った。
この体験を話すと「あのベトナム航空が? 信じられない」という反応する人が少なくない。確かにベトナム航空のスタッフは、日系航空会社に比べると「サービス精神に欠ける」と言われる。しかし私はベトナム航空に親切にしてもらった経験が多く、好感度は高い。それが相手に伝わり、新たな親切を呼び込むという、好循環が生じているのではないか。
レストランやショップの店員さんなど、サービス業に従事するベトナム人は客の態度を非常によく観察している。そして好感を持った客には愛想よく対応し、傲慢な客はぞんざいに扱う。日本の基準で考えると「サービス業失格」なのかもしれない。しかしベトナム生活が長くなるにつれ、私はそれに慣れ、今では「客の態度によってスタッフの態度が変わるほうが当たり前」と考えるようになった。
ベトナムで、いいサービスを受けたければ、お店に好かれる客になること。だから私はお店のスタッフには極力、愛想よくしている。その結果、得をするのは自分自身なのだから。
(本稿初出:2019年10月07日)
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