サイゴン路地裏物語

ベトナム・ホーチミン市の路地裏に住む日本人が見た素顔のベトナム人。

サイゴン路地裏物語

譲歩しない外交術

譲歩しない外交術

譲歩しない外交術

トゥインさんのお宅には、食卓が2つある。

理由はこうだ。以前に使っていたものが古くなり買いかえる際、どんなものがいいか、娘のトゥインさんとお母さんが話し合ったが意見が合わない。

トゥインさんが自分の好みで木目調の天板の食卓を購入したところ、お母さんはお母さんで、天板がガラスの食卓を買って来たのである。トゥインさんは「こちらのほうが落ち着いた色合いでいい」、お母さんは「ガラスのほうが汚れに強いのよ」と一歩も譲らない。結果として狭い食堂に、まったく趣味の違う2つの食卓が併存することになってしまったのだ。

この話を聞いて、私は、パリ和平会議の有名なエピソードを思い出した。これはベトナム戦争終結のために、南北ベトナムとアメリカが行った会議である。ここで使う机の形を巡って、北側と南側は数か月も論争を繰り返した。北側は円卓を、南側は長卓を主張したのである。

北側としては、南ベトナムで北と呼応する活動をしていた南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)を含む全参加者が対等だと示す狙いがあった。アメリカと南ベトナムはそれを避けたい。結果的に会議場の中央には円卓が配置された。

あるベトナム人と話をしたときのことだ。彼は「交渉とは、自分の主張を相手に認めさせるよう説得すること」だという。「交渉とは、お互いが少しずつ譲って、双方が納得できる着地点を見つけること」だと思っていた私は、虚を突かれた気がした。

私が「お互いの希望が合わない場合、中間地点にある条件を提示して、相手にも譲歩を求める」というと、彼は「僕だったら『相手は50%譲ってきたのだから、残り50%の譲歩も勝ち取れるはずだ』と考えるね」と応じた。

これでは、最初から勝負は見えている。ある時から私は、「ベトナム人の辞書に『譲歩』という言葉はない」と考えて交渉に臨むようになった。

では、譲歩しないベトナム人同士が交渉するとどうなるか。その答えがパリ平和会議であり、トゥインさんの家の2つの食卓だろう。このように、譲歩しないことが損失を生む場合も多々ある。

パリで机の形を巡って議論している間にも多数の命が失われたし、1つの家に食卓が2つあっても邪魔なだけだ。そんなことは、当事者だって分かっている。それでも「一度でも譲歩をすると、後々までなめられるから、長い目で見ると損」だと考え、自分の主張を押し通す。

もちろん、これがすべてのベトナム人に共通するわけではないが、ベトナム人が外交上手だと言われる理由の1つには、「決して譲歩をしない」という気合の強さがあると思う。

家庭内の「日越外交交渉」でも、日本人である私は、ベトナム人の妻に対して、譲歩に譲歩を重ねる一方である。

*写真はホーチミン市人民委員会庁舎内の会議室。

(初出:読売新聞・国際版 2017年8月11日/改稿:2019年6月24日)

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